商法改正
(一)商法改正の経緯
商法改正の経過は変化する実体経済への適応と言えます。
それは商法上の「会社の機関」の権限強化の課程でした。
商法上の期間、「株主総会」・「取締役会」・「監査役」の権限の変遷をまとめてみました。
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昭和25年商法改正
株主代表訴訟制度が日本にはじめて導入された。
「取締役会」は会社の業務執行の意思決定権と代表取締役が行う業務執行の監査を全般的に担うことになりました。その結果監査役は会計監査に権限が縮小されました。
それに伴い「株主総会」の権限も縮小されました。
A
昭和49年商法改正
山陽特殊製鋼の粉飾倒産などを社会的背景に、取締役の業務執行について「取締役会」はその妥当性を監査役がその適法性の監査を役割分担することになりました。
小会社(資本金1億円以下)において監査役は、業務と会計の全般の監査を担うことになりました。時代の要請に応えて商法特例法が誕生しました。
B
昭和56年の商法改正
ロッキード事件などを社会的背景に会計監査人の地位の安定化が図られました。その選任・解任が「取締役会」から「株主総会」へ移行されました。会計監査人の公平普遍な立場を保持する目的です。会計監査人の監査対象も資本金5億円以上に加えて負債総額200億円以上の会社にも拡大されました。
C
平成5年商法改正
大会社に於ける監査役の任期が2年から3年にまた社外監査機能の強化が図られ監査役が2名から3名に内1名以上を社外監査役が義務付けられました。
D
平成13年商法改正
監査役の任期が3年から4年に、任期途中の解任監査役にたいして株主総会への参加と意見陳述権が付与されました。
E
平成14年商法改正
大会社(資本金5億円意所・負債総額200億円以上の株式会社)において委員会等設置会社制度が導入され監査役会設置会社との選択適用が可能となりました。
中会社(資本金1億円以上の大会社以外)において監査役会の会計監査をうける旨の定款規定を認め株式市場の意向を組み入れました。
この会社は商法特例法上みなし大会社となりました。
F
平成17年6月29日新会社法成立。
平成17年6月成立の新会社法が平成18年5月より施行されます。
今回の改正は、上記の商法改正の集大成とも言える歴史的な大改正です。
カタカナ文語体から、ひらがな口語体に現代化されたのも大きな変革です。
(二)新商法のポイント(中小企業への影響と税理士業務)
(1)商法第二編(会社)・有限会社法・商法特別法が一本化され「会社法」として制定された。
したがって有限会社法・商法特例法等が廃止されました。
現行の有限会社は株式会社の最小単位として統合されました。
平成18年4月施工日以降の有限会社設立は出来ないことになります。
この結果、会社法2条1号は商法上の会社を株式会社・合名会社・合資会社・合同会社に分類しております。
株式会社において新法の施行により登記申請が必要となる場合は「株式の買受または消却に関する定款の定めの有る場合は施行日から6ヶ月以内に各種類の株式の内容を登記する必要があります。整備法113条5項
また、大会社・みなし大会社においては施行日から6ヶ月以内に定款の変更の必要はありませんが、監査役会設置会社・会計監査人設置会社である旨の登記が必要となります。
(2)既存有限会社の新会社法上の扱い
新会社法と同時に成立した整備法は会社法に基づいて廃止になる法律・施工までの経過措置等を規定しております。
有限会社は整備法の2条から46条までが、経過措置規定となっております。
整備法2条1項 →既存の有限会社は新会社法の株式会社として存続します。
整備法2条2項 →既存の有限会社の出資一口は株式会社の一株になります。
これらに対応するためには既存の有限会社の定款上の字句修正が必要です。定款の変更登記の必要はありません。
整備法2条3項 →既存の有限会社は上記により存続する株式会社の発行済
み株式の総数は旧有限会社の資本の総額を出資一口の株数で割った数です。
整備法3条1項 →新会社法施工後も商号は有限会社と名乗ります
整備法3条2項 →既存の有限会社は有限会社の商号をもつ株式会社すなわち特例有限会社と位置づけられます。株式会社への組織変更は商号の変更としての手続きとなります。
整備法17条 →絶対的機関すなわち株主総会と取締役が要件です。
整備法24条 →監査役は任意の機関です。監査役をおいた場合は会計監査の みとなります。
取締役会・監査役会・会計監査人・委員会・会計参与の設置は
任意です。
整備法28条 →決算公告は不要です。決算書類は本社に備付すれば足ります。
反面既存の株式会社は決算公告が必要ですので、公告を回避するためには平成18年5月の施行日までに有限会社に組織変更が必要です。また施行日以降の有限会社の設立は出来ませんので、決算公告や取締役の重任登記をしないで済む会社形態として希少価値が増すことになります。
整備法42条[〜]
議決権・配当・残余財産の分配について、定款により別段の定めがある場合会社法上の定めの有る種類株とみなされる場合は定款の変更は必要ありませんが新法施行の日(平成18年5月)から6ヶ月以内にその数を登記する必要があります。
特例有限会社が新法施行後(平成18年5月以降)に組織変更して株式会社となるためには、株主総会において会社の商号変更の決議を行い、株式会社の設立の登記申請と特例有限会社の解散登記申請をする必要があります。整備法45.46条
(3)合同会社(LLC;Limited Liability
company)の新設。
構成員の有限責任制を認め持分の譲渡を自由にしない人的会社です。
この点で合名・合資に似ておりますがLLCは会社ですので法人課税となります。
LLCは株式会社と同様法人格を有しますが所有と経営の分離はしておりません。会社構成員の合意による意思決定を行います。
すなわち会社内部の規律は組合です。
平成17年8月1日施工の有限責任事業組合(LLP;Limited Liability
partnership)は会社でなく組合です。構成員課税が特徴です。すなわち、利益は法人でなく構成員にパススルーされるのです。
投資家の投資マインドにインセンティブを与え、起業家の事業意欲を旺盛にすることにより内需の拡大を図る米国パートナーシップの税制をお手本としたこの税制の普及こそその存在価値を評価すべきシステムです。
本来会社法の一形態として参加すべきです。
会社の法律は法務省(商法)が所轄です。これに対しLLPは産業経済省(有限責任事業組合契約に関する法)です。
また、確認会社の設立5年以内の最低資本不適用の規定や5年以内に資本の額を
最低資本以上とし変更登記等をしないことを解散事由とする規定は廃止されます。
したがって確認会社では上記の定款事項の字句修正と定款変更登記が必要となります。整備法448
したがって最低資本までの増資も必要ありません。
上記により会社の種類は物的組織である株式会社と人的組織である合同会社(LLC)・合資会社・合名会社の4種類に分類されることになります。
物的会社と持分会社は双方に組織変更が可能です。(法2条26号)
物的会社である株式会社以外の合同・合名・合資の会社は持分会社と総称されます。(575条)
(4)会社の機関に関する改正
会社の機関に設定の選択が可能になりました。
絶対的機関として株主総会と取締役を位置づけております。
相対的機関として取締役会・監査役会・監査役・会計参与・委員会があります。
これらの機関は株主総会で任意に設置できることになりました。
相対的機関の選択が可能となりましたが、そのための要件もあります。
(一)株主総会
株主総会も取締役会を設置するか否かで権限が異なってきます。
取締役会を設置する場合は法令・定款事項のみが株主総会権限です(法295条U)、これは改正前の株主総会権限と同様です。株主総会召集も書面による二週間まえです。取締役会を設置する会社が会計参与を設置した場合は監査役や委員会を設置しなくともよいとされました。(法三百二十七U)
一方取締役会を設置しない場合の株主総会は株式会社に関する一切の事項を決議することができ決議事項の制限がありません。(法295条T)これは、非公開の小規模会社を想定しております。反面株主総会権限を制限するためには、取締役会設置が得策ですので、選択に際しては十分考慮する必要があります。定款に規定することにより、株主総会召集も一週間前でよく、口頭でもよいのです。計算書類の提供もいりません。
また株主総会の特別決議(三分の二)であった取締役の解任決議は改正され、選任・解任ともに普通決議(過半数)になりました。
(二)取締役
取締役は会社の構成する機関により権限が異なります。
株式自由譲渡性に対する制限規定の有無から公開会社・非公開会社・特例法の大会社に分類することが出来ます。
取締役会・監査役会の設置の有無から取締役会設置会社・監査役会設置会社と非設置会社等に分類されます。
非公開・取締役会非設置会社では、取締役は一人でもよくなりました。
非公開とは定款に株式の譲渡制限を謳っている会社をいいます。
業務に関する意思決定は取締役の過半数の決定によります。
取締役の任期は2年ですが、非公開会社においては(委員会設置会社を除く)定款にて、任期は最長で10年((法326条U)に伸長できます。
設立当初の1年は廃止になりました。
取締役の競業取引については株主総会の承認が必要となります。
公開や取締役会設置会社では取締役は三人以上でなければならないとされました。(法326条C)
取締役会設置の場合は、監査役または、会計参与の設置が必要です。
監査役会の設置をする場合には取締役会が必要となります。
会計監査人の設置の場合は監査役が必要です。
新会社法では共同代表制度が廃止になりました。〔共同代表取締役・執行役・支配人等〕したがって定款または取締役の互選で代表取締役を選任しない場合は、取締役全員が代表権を有することになります。取締役の競業取引については取締役会の承認が必要となります。
(三)監査役・監査役会
委員会を設置しない非公開会社の場合を取り上げます。
非公開の大会社は取締役・監査役・会計監査人が絶対的機関です。
非公開の場合は監査役会の設置は任意ですが大会社の場合は監査役は必要です
ここに大会社とは資本金5億円以上負債総額200億円以上の会社をいいます。、
大会社以外の非公開会社は取締役のみであとは選択機関となります。
取締役会を設置する場合は監査役または会計参与が必要となります。
監査役会を設置する場合は取締役会が必要となります。
また会計監査人を設置する場合には監査役は不要となります。
なお監査役の任期は現行では4年ですが、新会社法では取締役と同様に非公開会社においては(委員会設置会社を除く)定款にて、任期は最長で10年((法338条U)に延長となり10年までの伸長ができます。
(四)会計参与制度の新設
会計参与は任意の定款による、設置機関です。(以前は大会社・委員会設置会社に強制されておりました。)
会計参与は取締役と共に、会計の専門家・役員として計算書類を株主総会へ作成・提出し説明する機関として導入されました。社外取締役と同様の責任を負います。
会計監査人がいない中小企業の会計の信頼性を高めるのが導入の趣旨です。
会社法第三百三十三条 会計参与は、公認会計士若しくは監査法人又は税理士若しくは税理士法人でなければならないとされております。
一方会計参与を設置した会社は金融機関から融資を受ける際に担保や金利などの面で優遇を期待できます。したがって小規模の会社に採用のメリットがあります。
選任は株主総会決議によります。
会社法上役員とは取締役・会計参与・監査役をいいます、役員等といった場合は執行役・会計監査人を含みます。役員と会計監査人は株主総会で任命します。
(4)配当緩和
取締役会決議により配当が自由に実施できます。これは企業に悪しき意図が参入されることへの企業防衛上の配慮とcorporate
governance としての株主への自己防衛上の配慮からです。
また配当に関する基準日に株主である者は株式の発行を得ていなくとも当該基準日株主の権利を害さない場合は配当が受けられるようになりました。(法124条W)
配当は「金銭等の配当」に統一され、分配可能な範囲でいつでも出来るようになりました。分配可能限度額を超過した場合は期末までに補填することにより配当が可能になります。
(5)最低資本の撤廃
確認会社以外の資本金の最低額は有限会社300万円株式会社1000万円でした。これが廃止されました。1円会社の解禁です。
これは会社設立に関しての規制緩和です。同時に債権者保護の見地からは資本金という実態の無い数値から、純資産を重視する方向への改革です。会社設立に際しては払い込み保管証明は必要なく残高証明でよいことになります。
定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には次に掲げる事項を記載ししなけれならない。
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
(6)株券不発行
株券の発行が義務付けられていましたが、定款規定により不発行とすることが出来るようになりました。
(株券を発行する旨の定款の定め)
第二百十四条 株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる